アドラー心理学とは、心理学者アルフレッド・アドラーの思想からはじまり、後を引き継いだ人たちが、発展させた心理学です。
日本では、2013年の『嫌われる勇気』の出版やテレビでの紹介により、多くの人に知られるようになりました。
正式な名称は「個人心理学」と言います。
皆さんも『嫌われる勇気』を読んだり、テレビで紹介されたのを見たりして、アドラー心理学に興味をもったことでしょう。
そして、「こんなに話題になっているアドラー心理学ってどんなものなの?」「私の人生に本当に役に立つの?」「どれがおすすめの本なの?」といった疑問が、わいてきたのかもしれませんね。
なので、アドラー心理学についてわかりやすく解説していきます。
アルフレッド・アドラー1870年2月7日 – 1937年5月28日
アドラー心理学とは、実はアドラーの歩んできた人生から導き出された、彼なりの心に関する考え方であると言っても過言ではありません。
というのも、アドラーが生きていた時代の心理学は、人の心理を科学的に証明するということが主流ではありませんでした。
その代わり、研究者の考え方が「もっともらしい」「それっぽい」と思えれば、社会に認められました。つまり、その研究者の知識や経験が学説の構築に大きく影響を及ぼしたというわけです。
したがって、彼がどのような人生を送ってきたのかを知ることが、アドラー心理学を理解する上で重要なカギとなります。
幼少の頃のアドラー
アドラーはユダヤ人の裕福な家庭に生まれました。7人兄弟の2番目の子として生まれ、2つ年上のお兄さんがいました。
このような大家族の中で育ったことが、アドラー心理学の理論を生み出す基盤になったといいます。
幼い頃のアドラーは病弱であったため、思うように体を動かすことができませんでした。お兄さんは走ったりジャンプしたりできるのに……
これは、アドラーが劣等感を感じた最初の体験ともいえるでしょう。
それでも、外で友だちと遊ぶことが大好きで、友だち思いの人気者だったそうです。
また、アドラーは1歳の弟を病気で亡くしました。その次の年には、アドラー自身も肺炎で生死の境をさまよいました。これらの体験は、アドラーが医者を目指すきっかけになったと言われています。
ウィーン大学の医学部に進学したあとは、講義のあいた時間に友だちとカフェで議論や談笑を楽しむことが多かったようです。この頃から社会主義に関心を持ち、人は対等であると考え始めるようになりました。
大学を卒業して2年後に結婚しました。その後、内科医として開業します。
フロイトとの別れから個人心理学(アドラー心理学)へ
ジークムント・フロイト1856年5月6日 – 1939年9月23日
フロイトは、心理学の歴史上で有名な精神科の医者です。あるとき彼が、夢を心理学的な観点から分析する研究を発表しました。しかし、その研究はほかの医者からは認められませんでした。
そんな中、アドラーだけはフロイトの研究を認めたのです。
さっそくフロイトは、アドラーを自分の研究グループに招待しました。しかし、次第にアドラーはフロイトの考え方とは違う考えを持つことが多くなりました。
フロイトは相談者のどんな悩みに対しても、「それはあなたの性欲が原因だ!」という、たったひとつの解決策を押しつける心理学者でした。今の常識からすると、見当はずれですよね。それに対しアドラーは、「劣等感の克服」を重視しました。
そして、フロイトにライバル心を抱かれ、アドラーはその研究グループを去りました。それを聞きつけたアドラーに賛同していた仲間もあいついで脱退します。そして、その次の年アドラーはその仲間と「個人心理学会」という新しい研究グループを作りました。これがアドラー心理学の始まりです。
フロイトは人の心を「イド」「エゴ」「スーパーエゴ」と機械的、構造的に分けました。それに対しアドラーは、個人はまさに分けられないもの(=In-dividual)だと主張するために、Individual Psychology(個人心理学)というネーミングにしました。つまり、アドラー心理学とは、フロイトの心理学とは「正反対」だったのです。
第一次世界大戦でアドラーは軍医として戦場に向かいました。
そこでの悲惨な現実を目の当たりにしたアドラーは、「誰もがみんな仲間だと思えれば、きっと争いはなくなるだろう」という考えを抱くようになります。
戦後、アドラーは教育の分野にも協力して、
世界で初めての児童相談所をつくりました。
子どもやその親へのケアを行うだけではなく、教師やカウンセラー、医者などの育成も行いました。
ここでのカウンセリングで、アドラーがつくった個人心理学が一気に知名度をあげるようになりました。
本を書いたり講演をおこなったりと、有名人となったアドラーはアメリカでの講演にも招かれました。
そこでは、アドラーの講義や名言を編集した本が大ヒットしました。誰にでもわかりやすい形で解説することが個人心理学の特徴でした。
ただし、まだ脳スキャンの技術などがなかった時代なので、アドラー心理学のほとんどは彼の仮説であり意見でした。
晩年のアドラーは時間を惜しまず講演や診療をこなしました。
アドラー心理学がおすすめの人/おすすめでない人
アドラー心理学は、実現したい夢を持っている人におすすめします。
あなたも、夢を実現するまでの間に、他者との関係で悩んだり、自分の気持ちがネガティブになってしまったり、行動が止まったりしたことがありますよね。
そのとき、アドラー心理学の知恵を素直に受け入れて、実践していくと、ひとつひとつ解消することができます。そして、夢の実現に向けて、実力がついていきます。
逆に、心の状態が不安定な人にはおすすめしません。なぜなら、アドラー心理学を実践することで、かえって自分が傷ついてしまうことがありますし、ほかの人との関係も悪くしてしまうことがあるからです。あなたが心に不安定さを抱えているなら、まずダメな自分も、ステキな自分も、どんな自分も受け入れることからはじめましょう。
ここからはアドラー心理学を使い幸せになる方法です。
アドラー心理学で恋愛・結婚がうまくいく?
アドラー心理学で、必ずしも恋愛・結婚がうまくいくと断定はできませんが、うまくいく確率を上げることはできそうです。
恋愛や結婚の場面では、どうしても「愛されたい」という気持ちが強くなりがちです。しかし、愛されたいという気持ちが強すぎると恋愛はうまくいきません。
アドラー心理学では、「自分から愛さない人は幸せになれない」としています。
愛されたいと思うあまりに、自分本来のよさをなくしてしまい、相手の要望に応えすぎたり、相手の顔色をうかがって行動したりすることになります。
これは、とても苦しいですよね。だんだん恋愛自体が辛くなってしまいます。
「この人を愛そうと決心する」ところから恋愛は始まる、とアドラー心理学では教えています。今まで、恋愛がうまくいかなかったと嘆いている方は、
アドラー心理学を学べる本やマンガを読んでみてはいかがでしょうか。
アドラーの名言
アドラーはたくさんの名言を残しています。名言を知ったからといって人生が変わるわけではありませんが、考えさせられる名言をいくつか紹介いたします。
変われないのではない。変わらないという決断を自分でしているだけだ。
人生が困難なのではない。あなたが人生を困難にしているのだ。人生は極めてシンプルである。
ピンク色のレンズのメガネをかけている人は、世界がピンク色だと勘違いをしている。自分がメガネをかけていることに気づいていないのだ。
重要なことは、人が何を持って生まれたかではなく、与えられたものをどう使いこなすかである。
人生におけるあらゆる失敗の原因は、自分のことしか考えていないことにある。
アドラーは先ほど出てきたフロイトに比べて、あまり著作を残さず、それほど弟子も取らなかったため、名前が知られていません。
アドラー自身も「私の名前が残らなくなるとしてもそれでいい。それは私の考えがそれだけ普遍的な考え方になったということだからだ」と述べています。
しかし、アドラー心理学の考え方は、『夜と霧』の著者、ヴィクトール・E・フランクル、
『7つの習慣』の著者、スティーブン・R・コヴィー、
『人を動かす』の著者、デール・カーネギーなど、多くの著名人に影響を与えています。
アドラー心理学を活用された方々から「職場で苦手な同僚との関わり方を変えたら、自分の仕事に集中できるようになった」
「夫の態度にイライラしていたが、自分の考え方や接し方を変えたら、夫がやさしくなった」
「なんとかしなくてはと自分を追い込んでいた子育てを、冷静に見つめなおすことができて、心に余裕がもてた」など感想が寄せられています。
アドラー心理学 目的論、トラウマの否定
目的論とは、人の行動には目的があるということです。トラウマを否定します。
これまでの心理学では、何か問題が起きたら、その原因を探りました。
なぜなら、それを取り除くことで問題が解決できると考えていたからです。
しかしアドラー心理学では、何か問題が起きたら、それは何らかの目的を果たすためにおこなわれたと考えます。
たとえば、女の子にモテない理由はなんでしょう? イケメンではないということを原因にするかもしれませんね。
しかしアドラー心理学では、「フラレてキズつくことをさけるという目的」のために、あえて告白しないからモテない、というように考えます。
この考えですと、いくらイケメンになる努力をしても(原因を取り除いても)、
キズつくことをさけるという目的のために、また別な原因をつくりだしてしまいます(たとえば、太っているからなど)。
つまり、私たちの思考や行動は、どのような目的に向かっているのかによって変わってくるということです。
そのため「本当はどんな目的のためにこの行動をしているのかな?」「どうやったら、うまくいくかな?」と問いかけてみると、その思考や行動の目的を見出す手がかりになります。
アドラー心理学 課題の分離
課題の分離とは、自分の課題と相手の課題を分けて考えるということです。
課題の分離とは、相手の課題に対して、それは私の解決すべき課題ではないと切りはなすことです。
大切なのは、私たち一人ひとりの人生はそれぞれであり、相手の人生を必要以上に抱え込まなくてもいいということです。
相手の課題に踏み込まないということは、相手にも自分の課題に踏み込ませないということにつながります。
アドラー心理学 劣等感
劣等感とは、主観的に自分の理想に達していないと感じることです。
アドラー心理学では、私たちは理想があるから劣等感を抱くとしています。そして劣等感があるから、それを克服して理想を実現しようとがんばれると考えました。
つまり劣等感を、自分の理想に向かってよりよく生きるためのシゲキととらえたのです。
たとえば、収入が少ないことに劣等感を抱いていた人に恋人ができたとします。
そして、一緒に食事をしたり、映画を見たり、旅行をしたりと、理想を実現するにはなにかとお金が必要になります。
そのとき、「自分は十分に稼いでいないからダメだな」と思うこともあるでしょう。
しかし、「よし、カノジョを幸せにするためにセールスの勉強をして稼ぐぞ!」と劣等感を克服するためのシゲキとすることもできます。
私たちはカンペキではありません。そのため、劣等感を抱くことは自然なことです。大切なのは、理想が現実になるために、それをどのように活用するかということです。
アドラー心理学 共同体感覚
共同体感覚とは、自分は共同体の一部であると感じられることです。
共同体感覚とは、私たちは職場や学校、地域や家庭など、社会という共同体の一部分だと思える感覚をいいます。
そして、仲間に関心を持ち、幸せになるための行動をすることが大切であるとアドラーは考えました。
アドラー心理学では、以下の3つをその感覚を持つために必要なものとして挙げています。
ほかの人を無条件に信頼する
ほかの人のために役に立ってみる
ありのままの自分を受け入れる
この3つを見るとキレイゴトのように思えて、なかなか実践するのが簡単ではないなと思うかもしれませんね。
そのときは、あなたのできる範囲からでいいので「ほかの人のために役立ってみる」ことから始めてみてはいかがでしょうか?
誰かの役に立っていると思えることで、自信が持てたり、自分の価値を実感できたり、自分の居場所を感じられたりすることができます。
アドラー心理学 ライフスタイル
ライフスタイルとは、その人の考え方や行動のクセを言います。
私たちは、性格を変えるのは簡単ではないというイメージを持っていますよね。
しかし、性格ではなくライフスタイル、つまり私たちの考え方や行動のクセと考えれば、変えることができそうですよね。
また、このライフスタイルですが、幼いころにつくられたと言われています。
そのため、意識してつくられたものばかりではなく、現在のライフスタイルに不満を感じている人もいるかもしれません。
しかし、その当時の出来事や環境などを解釈してライフスタイルをつくりあげてきたのは、どんな事情があろうとほかならぬ自分自身なのです。
そして、それは生まれたあとに自分でつくりあげたものです。そのため、満足いくものでなければ、今からでも自分で変えることができます。もちろん、変えないという選択をすることもできます。
たとえば、キビシイ親に育たられたから、自分の気持ちをおさえるクセがついたというライフスタイルを選ぶか、
キビシイ親に育たられたから、周りの人には親切にしてあげているというライフスタイルを選ぶかは、自分自身で決められるということです。
先生も親も必見!アドラー心理学 勇気づけの子育て
アドラー心理学には、「ほめるのではなく、勇気づけ」という考えがあります。この考えは子どもの成長にとても役に立ちます。
「子どもをほめて育てよう!」 これは一般的によく聞く言葉ですよね。
たとえば、子どもが遊んだおもちゃをかたづけたとき、あなたはどのような言葉かけをしますか?
「よくできたね」「おかたづけしてえらかったね」
この言葉をかけられた子どもはとても喜ぶでしょう。しかし、これを続けていくと、ほめられないと片付けをしない子どもになってしまうことが心理学でわかっています。
あるいは、ほめられないとがっかりしたり、おとなにほめられるために自分では望んでいないことをしてしまったりするかもしれません。
そして、このようにほめるということは、自分が「上」だと思っている人が、
自分より「下」だと思っている人にかける言葉であるとも言えます。そして、子どもをコントロールするための対応とも言えます。
アドラー心理学では、「私たち人間はみんな対等である」というアドラーの考えに基づいています。そこで大切になってくるのが「勇気づけ」です。
勇気づけは、相手を尊重し、信頼することを基本にしています。そして、相手に課題を乗り越えられる活力を与えることにあります。
つまり、人はみんな仲間であり、自分には目の前の課題に対して乗り越えられる能力があると相手が思ってもらえるような対応をすることです。
先の例での「勇気づけ」としての言葉がけには、たとえばこんなものがあります。
「おかたづけをしてくれて、うれしかったよ」
「ありがとう」
「今日は1時間も勉強できたね」
このような「勇気づけ」の関わり方によって、以下のようなことが期待できます。
◆「勇気づけ」による効果
ご褒美やバツがなくても、自ら勉強したり、家事を手伝ってくれたりするようになる
できたことよりも、がんばった過程を認めてもらえるので、チャレンジする子に育つ
子どもを一人の人としてみなすので、親子がお互いを尊重し、自立した関係を保つことができる
もし子どもへとの接し方にカベを感じていたら、「勇気づけ」の対応を試してみてはいかがでしょうか。
もちろん、このようなテクニックも大切ですが、親をはじめとした、その子を取り巻く大人が、
どれだけあたたかく真剣に手間暇かけてかかわるかの方が、もっと重要であることは忘れないでくださいね。
アドラー心理学はあくまで仮説に過ぎない
アドラーが生きた時代の心理学は、科学的に証明されたものよりも、その時代の哲学や宗教などの影響を受けていました。
したがって、アドラー心理学はアドラーの思想であり、仮説に過ぎません。つまり、その仮説を検証したものではないということは頭に入れておくといいと思います。
今現代に生きる私たち
過去の賢者の英知を学びながらも、新たな知識も取り入れ、自分の力で考えたり、行動したりすることが大切になってきます。
その力をつけるために、アドラー心理学は有効な知見となるかもしれません。
1度しかない人生、自分の中にある勇気を育てていって、今このときを大切に生きてほしい、そして、人のために行動することがとても価値のあることだということを実感してほしい、
アドラー心理学にはそういった願いが込められていたのかもしれませんね。
一緒に幸せになるために行動していきましょう。